2015年12月12日

印伝に魅せられて、アリアディフィレンツェへ

先日のイギリス旅行の折、
山梨の伝統工芸「印伝」の小銭入れを羽田の免税店で購入し、
イギリスの教授へのお土産にしたら、大変喜ばれました。

その「印傳屋さん」の山梨の本社へ、静岡県ユニバーサルデザインの
会員の皆さんと見学に出掛けました。

アリアディフィレンツェ


印傳屋さんは「アリアディフィレンツェ」(フィレンツェの香り)
という何ともオシャレな名前の工業団地の中にあります。

この工業団地、建築家「北川原温」氏による斬新な工場の建物群が、
豊かな緑の中に調和し、ファッショナブルな街が形作られていて、
来訪者を楽しませてくれます。

印伝の名前の由来は異国情緒漂う「印度伝来」という言葉から来ているとか。
その印傳屋さんは江戸時代から400年以上続く、革の加工屋さん。
鹿革に漆を型紙に通して刷り込み、様々な文様を加工する。

昔は鎧や兜に使われ、次第に革羽織、煙草入れ、巾着などから、
現代のハンドバック、財布、ポーチなど、装身具として
愛用されているそうです。




ガラス張りの作業工房を見せて頂きました。
漆の型押し工程と鹿革を煙であぶり出して模様を付ける
燻べ作業を、案内係りの方から丁寧な説明を聞きました。
完成までに2、3ヶ月から半年まで掛かる、全て手作業の世界。

人肌に近い鹿革独特の風合いに魅せられて、
印伝に虜になったリピーターは、独自の絵柄や技法を求めて、
その後オーダー品を注文するケースが多々あるそうです。

印伝の商品が並ぶショウルームで、
印伝の小銭入れを購入しようとしましたが、
ここでの販売はなく、製品番号を明記して下さり、
静岡の場合は「池田屋さん」でお求めくださいとのことでした。


(父の持っていた印伝のきんちゃく)


貴重な伝統工芸を今の時代にどう生かしていくか。
人々にその魅力を解って頂く為に、商品をどう紹介していくか。
案内嬢のどんな質問にも答える、簡潔で的確な解説の素晴らしさ。

アリアディフィレンツェにある「印傳屋さん」の本社は
そのヒントを幾つも教えてくれました。

  


Posted by kittsan at 10:18Comments(0)美術工芸の事

2014年11月15日

大人気大混乱の「鳥獣戯画展」を見る。

11月上旬、京都へ商品の納品及び仏壇展示会見学の折、
京都国立博物館で開催中の「高山寺と鳥獣戯画展」を見てきました。



テレビでの放映もあったせいか大人気で超満員の盛況。
妻と私もホテルを朝8時前に出て、開館1時間前から列に並びました。
9時の開門を経て、9時半よりお目当ての鳥獣戯画展の建物がオープン。
見学者は最初の高山寺の解説には目もくれず、我先へ絵巻物の展示場へ急ぐ。
行ってみるとなんとそこには、テープで仕切られ2列づつ蛇行しながら延々と続く人の帯。

わずか数メーターの距離を数十分。
亀歩のテンポでようやく硝子ケースの絵巻物の前に来ると、
「立ち止まらないで歩きながらサッと見て下さい。
 たくさんの方がいらっしゃいますので列を乱さないで下さい。」の絶叫連呼。
有名な最初の部分(甲巻)を見るのがわずかの数十秒であっと言う間でした。

幸い乙巻丙巻丁巻に進むにしたがって、人がまばらになりゆっくり見れます。
もっとも、内容も巻を経ることにつまらなくなっていきますが・・・。
これは私の私感ですが、甲、乙巻が稀にみる傑作絵巻で、
後は内容の奇抜さも、筆の勢いも、絵の鮮明さも劣ってきているようです。



出口のギャラリーショップも大賑わい。
妻が絵はがきか何か欲しいようでしたが、私はどうせ無用のものになるからと、
図録(2600円)のみを購入しました。
この図録ちょっとお得で、パタパタとミニ折物の鳥獣戯画全巻が付録で付いてます。
最後に夫婦で絵巻物の中の奇妙な今人間となって、画像絵巻に収まりました。

「高山寺と鳥獣戯画展」は来年春東京国立博物館でも開催されるようです。
ただし京都と同じように、甲巻から丁巻までそれぞれの前半部と後半部が、
前期と後期の2回に分けて展示されます。
2回見て全巻制覇・・・・・セコイ!
  


Posted by kittsan at 10:20Comments(0)美術工芸の事

2014年09月30日

偶然と必然、そして幻の漆芸家「関野晃平氏」のこと。

九月は思わぬ出会いがあった。


9月4日、文楽公演「不破留寿之大夫」を見るため東京に行く予定。

だがまてよ、ここで夏休みを、と遠回りして松本経由東京のひとり旅。

松本で各所を巡った後、みやげの買い物のため中町へ来て散策。

「蔵しっく館」で信州の木工作家の「木の匠たち展2014」があることを知る。

作家さんのブースの中から、驚きの作品、凄い作家「土岐千尋」氏に出会う。

声をかけられて、話の中からさらに幻の漆芸家「関本晃平」氏の事を知る。

ネットで氏のことを検索したがほとんど資料がない。

唯一、「ほんものの日本人」という本の中に関野氏の記述があるらしい。

早々に「ほんものの日本人」をAmazonから取り寄せ、読む。




関野晃平氏 1943年生まれ 
あの白州正子さんに「漆芸家では現代最高の人」と絶賛された工芸家。
多摩美大卒、黒田辰秋の工房で修行し、漆芸部門で氏の片腕の存在となった。
その後独立し、生家の藤沢からなんと島田市の伊久美地区の農家に移り作品作りの日々。
展示会は1993年から東京八重洲画廊での二人展(&土岐千尋)が知られたのみ。

「私には人のため、社会のため、ましてや国のため、
  といった意識がまったく掛けている。一言でいえば、
   自分のためにやっていることにすぎないのですから、
    どうか、たいそうに受け取らないでほしい。」
             ほんものの日本人「関野晃平」の章より


静岡にずっといながら、私を含めほとんどの人が知らなかったのでは。
土岐氏との会話の中で、私が静岡ということで関野氏の名前がポッと出てきたらしい。
しかし、土岐氏の横浜高島屋展示会のDMに書いてあるように、
残念ながら、今年(2014年)春1月急逝してしまったそうだ。




先日、土岐千尋氏の木漆工芸展を横浜高島屋まで妻と見に行った。
「ここで関野氏との二人展が開催できなかったのは、返す返すも残念だが、
来年(2015年)春、藤沢市で関野氏の回顧展が予定されていますよ。」
土岐氏からそう伺った。


回顧展の詳細がわかりました。

第14回 藤沢市30日美術館 「漆に生きる 関野晃平」
 開催場所 藤沢市民ギャラリー 
 開催期間 2015/02/03~2015/03/08 休催日月曜日 
 開催時間 午前10時~午後7時(入館は6時30分まで)
      日曜日は午後5時閉館(入館は4時30分まで)
 料金   無料
 主催   藤沢市 藤沢市教育委員会 藤沢市30日美術館実行委員会
 公式サイト http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/c-hall/kyoiku/bunka/shisetsu/gallery-annai.html
 お問い合わせ 0466-23-2415(藤沢市民会館内)ジャンル工芸




松本行きから木工家との出会い、さらに本を探して漆芸家を知る。
偶然の出会いから、必然の好奇心によって、願ってもない贈り物を頂いた。

幻の漆芸家「関野晃平氏」の、希有の作品をこの目で実際に見るチャンスがある。
来年の春がいまから待ち遠しい。

  


Posted by kittsan at 09:34Comments(0)美術工芸の事

2012年11月19日

彫刻としての仏像

仏壇に変わる”厨子”はひと言で言えば、大切な物を収める箱。
仏教国家であった古代日本の尊大な物と言えば仏像。
人間の理想郷の姿を模した、如来、菩薩、明王など、
仏像の多くが”厨子”の中に収納されてきました。

吉蔵の製作する「厨子・仏壇」のなかに納める物として、
位牌、コアボトル、写真などが考えられますが、
手を合わせたくなる対象として、真っ先に仏像が挙げられます。

私たちは最近、その仏像の彫刻を得意とするHさんの作品を取り上げています。
先日遺作展があった「金丸悦朗」氏は、本格的な仏像彫刻家・仏師として有名ですが、
氏を尊敬するHさんも、端正で美しいさまざまな仏像を完成させています。



聖観音・胸像 in ZUSHI KASHIKO



地蔵菩薩 in ZUSHI ARIKA



現在、「金剛力士・胸像」を製作中。
Hさんの仏像彫刻は、その人柄と相俟って、
おだやかな中にも厳しい表情を醸し出しています。
彼はもちろん全身像を基本としていますが、
胸より上、頭(かしら)を焦点とした胸像にもその特徴が現れています。

全身像は衣の流れを表現するため、それはそれで手が掛かります。
「せめてお顔だけでも。」という方に向けて、
「気軽に仏像に親しんでいただくための、入口になって欲しい。」
との願いから、胸像にも力をいれているそうです。

Hさんの木彫仏像は、産業フェアしずおか「吉蔵」ブースでご覧頂けます。  


Posted by kittsan at 09:30Comments(0)美術工芸の事

2012年10月26日

孤高の彫刻家「仏師金丸悦朗遺作展」を見る。

仏師・金丸悦朗氏の遺作展が富士山静岡空港直下、牧之原市石雲院にて開催されてます。
地元の方々や、彫刻ファンでたいへん賑わっているようです。



金丸悦朗氏は昨年秋、惜しくも67歳で逝去されました。
氏は派手な振る舞いを好まず、真摯に仏像と向き合う孤高の人でした。
商業施設(デパート)での展示会は1990年松坂屋1回のみ。
その後はサールナートや石雲院など、地元の寺院での静かな展示会でした。

私と金丸氏の作品との出会いは、松坂屋静岡展での最初の個展の時。
カルラの壮絶な表情と疾走感にドキモを抜かれたことを覚えています。
それから何年かして牧ノ原市の石雲院での展示会に伺いました。
そしてその時、私にも手の届く作品「羅漢像・無」をやっと購入したのです。



何日かして、金丸氏の工房へ作品を頂きに伺いました。
駿河湾が見える自宅の高台にある氏の作業場。
道具や作品を見せながら、仏像や彫刻のことを朴訥と語る金丸氏。
携帯もテレビもない孤独な場で、ひたすら鑿(のみ)を差す氏の姿が浮かび上がりました。

今回の遺作展に展示されたのは、これまで完成させた51点。
仏師として、菩薩・如来・明王像も素晴らしい。
しかし、それ以上の彼の傑作は「カルラ(迦楼羅)」八部衆や「邪鬼」の連作、
また五百羅漢のうち、半分ほどを完成した羅漢衆。
今回はこれらの作品も鑑賞することが出来ます。





金丸氏の奥様によると、所有者から借りて展示してある作品もあるとか。
展示会が終われば、見ることが難しくなるのではないでしょうか。

ぜひこの折に、不世出の彫刻家「仏師金丸悦朗遺作展」をご覧になることをお薦めします。

仏師「金丸悦朗」遺作展
2012/10月21日(日)〜28日(日)
10:00〜17:00
牧ノ原市坂口 石雲院(富士山静岡空港直下)


  


Posted by kittsan at 08:30Comments(0)美術工芸の事

2012年01月30日

全国でふたりだけ!さわらを剥ぐ職人

先週、新しいさわらヘギ板を捜して、長野県木曽路を訪れた。
東名高速、東海環状自動車道、中央自動車道を乗り継いで、中山道へ。

山と山の谷間を上下し、川のほとりをうねうね蛇行する旧国道中山道は、
山を切り開いて強引に道路を引いた高速道に比べ、ドライブの楽しさが増す。
「木曽路はすべて山の中である」の言葉どおり、山また山を越えていく。

木曽には木曽五木といって、ひのき、あすなろ、さわら、ねずこ、こうやまき
と五種の針葉樹の原生林があり、江戸時代から保護してきた。

これらは建築、家具や生活雑貨の木製品に使用され、多くの人に愛されてきた。
製材技術の乏しい時代、板をつくるには木を割る、
薄くするには剥ぐ(引き裂く)等して板にしており。それをヘギ板と呼ぶ。
初めはひのき、材が乏しくなり今では、さわら、ねずこ(黒部)が使用されている。



そのヘギ板職人の第一人者、小林さんの工房を訪れた。

「ヘギ板の仕事は昔からの技法そのままの仕事です。
変わった所は原木を切るにチェーンソーを使い、
巾を決めるのに丸のこを使う位で、後は手、足、の技術です。
皆さんの周りにある木では手作業で1ミリの薄さにする事は考えられないでしょう。
だから説明をしても解って貰えない事多く、ヘギ板が忘れられて行くことが残念です。」


小林さんは全国でふたりしかいないヘギ板職人のひとり、もう後がいないそうだ。



目の前でさわらの板を引き裂く作業を見せてくれた。
製材では死んでしまう木材の繊維が、剥ぐことでそのままの材質感で生きている。
裂いた柾目や板目の凹凸が陰影となり、光を当てると美しい光沢感がある。



現在は和風建築が少なくなり、利用頻度も減っている様だが、
多くは網代にして天井や腰板、衝立に使用している。
常々このさわらヘギ板材のテイストを生貸した家具や小物を作ってみたいと考えていた。



今回、デザイナーからヘギ板を使用した厨子の製作の依頼があった。
前回と違うすっぽりとヘギ板で覆われた民家の様な厨子のスケッチ。
はたして、この材を使って製作が可能かどうか、思案している。  

Posted by kittsan at 09:10Comments(0)美術工芸の事