2010年09月28日

コミュニケーション本来のすがた/内田樹著「街場のメディア論」

内田バブルという言葉があるほど人気の、内田樹神戸女子学院教授。
だいぶ前に、氏の初期の本「ためらいの倫理学」という本を読んだけれど、
少々難しいというか、どちらかというと読みにくい本だった記憶がある。

さて、今回の話題の本「街場のメディア論」。
学生向けの授業のやり取りを編集した街場シリーズの一環。
わかりやすく、読んでいてなるほどと思えることばかり。
若者が未来を肯定的に生きるためのメッセージ、となっている好著でした。

コミュニケーション本来のすがた/内田樹著「街場のメディア論」

今、新聞やテレビなどマスメディアが危機的状況にある。
それはITという新しいメディアに取って代わられたからではない。
「自分が言わなくても、誰か代わりに言いそうなこと。」ばかり並べ、
「自分がここで言わないと、たぶん誰もいわないこと」を語らなくなったから。

メディアが世論を代表するモノ、メディアはビジネスだ、という意識が業界の大勢。
命にかかわるほどの問題提起をすることのなくなった、
現代のメディア界の退廃を指摘しています。

続いて、出版の危機についても論じています。
読者が、安く、知的負荷が少なく、刺激的な娯楽のほうに向いているため、本が売れない。
と、読者の知的な質を見下し、単なる消費者として認識している出版業者が多い。
でも、ITに見られるように、知的好奇心の旺盛な人は多いのであるから、
彼らに電子書籍を含めた、本に出会えるチャンスをもっと有効活用することが先決だ。

そして、この本の白眉は、最後「コミュニケーション本来の姿」について語っている所。
未知の者同士の交流は、「これは何だろう?」と、
不思議に思う贈り物(交換品)の価値を認めることから始まる。
疎遠な環境と親しみ深い関係を取り結ぶ力
が、コミュニケーションに生命を与えるのだ。

そうしたコミュニケーションの本質を理解しているかどうか、が分かれ道。
そこから得た情報を、自身の養分と活力にすることが出来る人だけが、危機的状況を生き延びる。

最後は、りっぱな現代文明論になっていました。



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Posted by kittsan at 09:00│Comments(3)本の事
この記事へのコメント
kittsan
 何て事でしょう!今朝知り合いから浜松で内田先生の講演会を主催するので、良かったら来て♪とのメールが入りました

 浜松で一番の人気作家だそうですね(^^)
Posted by 山ちゃん at 2010年10月01日 14:15
Thanks 山ちゃん。

そうそう、そうでした。
内田氏の浜松講演会、ブログに書き足すつもりでした。

神戸女子学院主催の、ホテルで、受講料2000円のやつですか?
間違っていなければ、戸田書店にあったポスターで見ました。

聴きたい気もするし、タレント並みの女性人気だからちょっと退くし・・・。
中島義道氏や、森岡正博氏の講演なら、(有料でも)飛んでいきますが。

山ちゃんはいかがされますか?
私と違って、内田氏は山ちゃん好みの匂いがしますよ。
Posted by kittsan at 2010年10月02日 07:45
kittsan
 残念ながら、前日から急な仕事が入ることが分っているので土日返上になると思います(*-*)
 知り合い曰く「機会があれば静岡でも企画しない?」って言ってますので、その時は又(^^)v
Posted by 山ちゃん at 2010年10月03日 10:25
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